« 前の記事 | トップページ | 次の記事 »

本日の日銀の金融緩和について~ようやく、具体的な一歩を踏み出した。あとは「Mission Impossible」の呪縛を解けるのか?

本日の日銀の金融緩和策について、以下の3点が発表されました。白川総裁はこれを「包括緩和」と名付けています。

1. 翌日物の誘導水準を0.1%前後から0~0.1%に引き下げることで、ゼロ金利継続の姿勢を明確にする

2. 1年後に5兆円前後の残高を予定する基金を設立。市場からREITや国債、CPなどを買い入れる

3. ゼロ金利などの緩和策について、(もともと日銀が目標レンジと言っていた)1%の物価上昇率が明確になるまで継続する

結果、日経平均は137円上昇、為替も83円台後半まで押し戻しました。

この金融緩和について、正直な感想は

「ようやく、これまでのとりあえずのアリバイ的な緩和策から、具体的かつ本格的な緩和策への一歩を踏み出してくれたか」

というものです。ですので、これがゴールとはいえず、ようやくスタートすることを躊躇していたランナーが、走り出した、という感じです。

評価できる点は「質的」な表明です。

・これまでのおとなしめのオペ(3~6ヶ月の流動性高い資産の買い入れ)から、しっかりと信用リスクがある資産(REITやCP)や長期国債の買い入れまで踏み切ったこと

・緩和期間を物価誘導水準のめやすである1%前後に落ち着くまで、継続すると説明したこと

・効果に応じて、追加的な施策を打つ用意があると明確にしたこと

ある意味、これまでゲームに参加していなかった銀行が、ようやくおそるおそるですが、国際市場のゲームに武器と弾薬を携えて、飛び込んだ、というイメージです。

今回も「やったつもり」緩和策が出てくるかと市場は思っていたので、ポジティブサプライズということで受けとられているようです。

佐賀でもずいぶんとデフレ脱却の重要性を説明させていただいてきましたが、ようやく、実効性ある政策に着手する気合いが入ったのかということを期待しています。

ただし、下記の点についてはまだ完全にコミットしたとは言えず、「量的」な不安が残る内容です。だからこそ、株も、為替も、微妙な反応になっているのではないかと推察します。

・翌日物金利を結局は、0~0.1%ということで、歯切れ良くゼロ金利と言うよりは、上目をもたせてしまいました。

・基金について、規模が5兆円と小さく(現在の日銀バランスシートの数パーセントにしか過ぎません)、量的におそるおそる、ということがわかります。

・長期国債の買い入れはずいぶん前から「伝説の教授」などの複数の著作でずっと言い続けてきたことですので、一歩前進ですが、それでも買い入れるのは結局残存年数数年以下と、まだ及び腰です。

・物価目標誘導について、1%前後、というこれまた、もごもごとしたいい方でした。実質インタゲととっているメディアもありますが、逆に日本の報道では、重視されていない様子でした。

このように政策を小出しにしていきいますと、市場が刺激になれてしまい、反応しづらくなってしまうことを懸念しています。

-なぜ、一気に基金も20兆円とか、それより大きくなどと言わないのか
-なぜ、買い入れる国債の残存期間は問わない、と言わないのか
-なぜ、インタゲについてもごもごとして明確にしないのか

ちょうど下記のウェーバー=フェヒナーの法則を朝日新聞で書いたばかりなのですが、刺激に弱くなってしまい、「またどうせ、日銀は今後も小出しにするのだろう」と市場からなめられるおそれがあるためです(すでにそうなっているかもしれませんが)。

リンク: asahi.com(朝日新聞社):人間はどんどん刺激の強いものが好きになる――ウェーバー=フェヒナーの法則 - 勝間和代の人生を変える「法則」 - ビジネス・経済.

しかし、市場にとって、そして私にとっても「(質的には)ポジティブサプライズ」であったことは確かです。今後、市場がどのくらくい日銀の本気度かを理解するのか、それは、これからの「さらなる日銀からの(量的な)ポジティブサプライズ」に期待したいと思います。

なお、私は今回のオペでも私のある仮説に日銀が従って動いており、やはりそうなのか、と思ったことがあります。それはなにかというと

「日銀はデフレ脱却はしたいとは思っているが、市場に出回っている国債の流通価格を大きく引き下げるようなリスクとってまではやりたくない」

という呪縛があるのではないかということなのです。

例えは「インタゲを1%」とか「2%」と明確にコミットしてしまうと、いまの国債利回りはそれよりも小さいものばかりですから、もしマーケットが「長期利率も1%以上、ひょっとしたら2%も越えてくる」と考えた瞬間、国債の見切り売りが流通市場で始まり、収集がつかなくなる可能性があるためです。

そして、政府系金融機関や、民間金融機関、年金ほか、さまざまな金融機関が大量に保有をしてる国債が、たとえば日銀のインタゲコミットにより、利回りが1%以上上昇して評価損を大きくくらって、銀行によってはBIS規制にひっかかったりしたら、日銀が守りたい「金融システムの安定性」を自ら揺るがせてしまいます。それこそ、日銀が守りたいと思っている庭先の人たちに対して、親分自らはしごを外すわけですから、非難囂々でしょう。そういうことを恐れているのではないかと思う節があります。

なお、金融機関がインタゲで保有国債が評価損を食らったとしても、他の資産、たとえば保有株式が値上がりしたり、不良債権が回復して回収できるようになったり、新規の優良貸出債権が増えれば、銀行の資産全体は痛まないはずです。100%国債の資産ポートフォリオでない限り。ただ、多少のタイムラグができたり、そのときにうまく乗りきれる銀行、乗りきれない銀行が出てくることもあるでしょう。

「手許の物価は上げたいけれども、長期金利は現状よりできるかぎり上げたくない」

この「Mission Impossible」のようなバランスを取ろうとする限り、よほどクリエイティブな施策でないと、今後も日銀の緩和策は歯切れが悪くなるし、マーケットの実効性もなめられてしまうのではないかと思います。

デフレは脱却したいが、あまり強い薬を打つと、長期の名目金利も大きく上がってまうので、漢方薬でもいいから打ち続けながら、なんとか現状の国債(しかもそのほとんどを国内金融機関が保有している)の大きな評価損も避けながら、せめて「1%」までいけないか。

そんな日銀の苦悩を感じ取った包括緩和でした。いずれにしても、「タダ飯はない」ということに早く気付いて欲しいです。


参考~残存10年、クーポン1%の実効利回りごとの価格めやす

1%・・・100円(基準と考えた場合)
2%・・・91円(評価損9%)
3%・・・83円(評価損17%)
4%・・・75円(評価損25%)

残存年数が小さければ、評価損はもっと小さくなります。2009年12月現在、国内金融機関が保有する国債残高は631兆円、全体の76%のシェアです。5%の評価損だけでも31兆円、10%になると63兆円の負担です。

市場にぶん投げられた国債を思考実験的にはひたすら日銀が買い取ることも可能は可能でしょうが、それはかなりの物量作戦になるリスクがあります。

それよりは、その評価損が他の資産で吸収されるかいなかを考えた方が、健全でしょう。

参考リンク: UPDATE2: 追加措置は信用や量を含む「包括緩和」、必要なら基金規模拡大も=白川日銀総裁 | マネーニュース | 最新経済ニュース | Reuters.

このエントリーをはてなブックマークに追加

勝間和代オフィシャルメールマガジン 登録無料
ページの先頭へ