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November 13, 2005

第三の消費スタイル「利便性消費」から考える、今後の成長市場

第三の消費スタイル

第三の消費スタイル

今週は、最近買った本の中で、久々におーー、と思った、第三の消費スタイル
という本の中にある「利便性消費」という概念について、考えてみたいと思います。

この本をどこで見つけたかは忘れてしまいました。確か、特に書評で紹介されていた、とかではなく、店頭でなんとなく手に取った本の一つだったと思います。

この利便性消費という考え方は非常にシンプルで、この本の分析では、消費者を二つの軸で四つに分解して考えています。

二つの軸とは、価格へのこだわりと、嗜好へのこだわりで、以下の4つに顧客を分解します。

その1 自分の嗜好にこだわり、価格は高くてもいい人・・・プレミアム消費
その2 自分の嗜好にこだわるが、価格は安いものを探す人・・・徹底探索消費
その3 自分の嗜好にはこだわらず、価格が安いことを最優先する人・・・安さ納得消費

ここまでは納得のいく話なのですが、第三の消費スタイルと、というのは下記の人です。すなわち

その4 自分の嗜好にはこだわらず、価格にもこだわらない人・・・利便性消費

という人たちが日本人に35%もいる、という発見なのです。第三と言っているのは、嗜好にも、価格にもこだわらないため、第三、という表現を使っています。

では、この利便性消費がなぜ、よい分析なのでしょうか?それは、利便性消費をするセグメントが、日本では最も多いが、海外ではあまり見られないからなのです。

この考え方は、海外企業の日本進出をいろいろなプロジェクトで手伝っていた身としては、とてもしっくり来ます。そう、海外だと、品質にこだわるか、価格にこだわるか、とちいう消費スタイルは一般的なのですが、あまり「便利であれば、価格にも品質にもこだわらない」という人は意外に少ないのです。

例えば、海外で育った人と食事に行くと、当たり前のように、お金を払う前にレシートを一つ一つチェックして、食べていないものがついていないか、金額は合っているか、というのを確認するような気がします。また、商品を一つ買うにしても、いろいろなものをいろいろな角度から分析し、比較購買をするスタイルが一般的です。

ところが、日本の場合、レシートをチェックする人はまれですし、比較購買もかなり限られた範囲でしかやらないような気がしています。

本の中では日中の比較しかないのですが、日本で35%いる利便性消費は中国では16%、一方、日本ではマイノリティである徹底探索消費13%は、なんと中国では40%になります。

結果、特に消費者相手の小売業において、私の感覚では、利便性消費に合った企業は成功していますが、そうでない企業は撤退しているような気がします。

例えば、日本で成功した外資(と言うか、外国から入ったビジネスモデル)と言えば、下記が思いつきます。
・マクドナルド
・宅配ピザ
・アマゾン
・ヤフー
・デル

逆に、失敗、あるいは苦戦している外資は下記でしょうか。
・ウォールマート
・カルフール
・プランタン
・サブウェイ
・ブーツ
・セフォラ

そう、違いは明確です。成功している組は利便性がそもそもの強みであり、失敗組は品揃えや価格などが強みだったのです。

日本人が利便性消費になるのは、下記が理由ではないかと仮説としては考えられます。

1. 品質が全体的に高く、価格のばらつきが低いため、価格対品質を細かく追求する必要がなかったこと
2. 全体的に長時間労働の習慣のため余暇が少なく、消費に使える時間が短いこと
3. 他の日本人を信頼する傾向があり、自己責任の概念が発達していないこと
4. 平均的な家庭は十分な購買力があり、あまり価格にこだわる必要がなかったこと

結果、世界でもっともコンビニエンスストアが発達した国になっています。

この本では、こういった利便性消費の消費者に向けて、ますます利便性を追求することがマーケティングの解である、ということが一つの提案になっています。

しかし、私は現状を分析する際にはその提案でいいと思っていますが、もう一強く主張したいこととして、今後、消費者はインターネットや情報網という口コミを手に入れることで、嗜好にこだわるセグメントが今後どんどん増えてくるのではないかと思っています。

この本にある野村総研の調査でも、2000年の時点で嗜好にこだわらないユーザーの合計は利便性消費の37%と安さ納得消費の40%を合わせ、計77%を占める多数派でした。

ところが、2003年の時点では、両者の合計は利便性が35%、安さ納得が34%と計69%に減り、プレミアム消費ユーザーが13%から18%へ、徹底探索消費ユーザーが10%から13%へと大きく伸びています。

明らかに、伸びているユーザー層は嗜好こだわりユーザーであり、利便性ユーザーや安さ納得ユーザーは減りつつあるわけです。

したがって、解としては、「わかりやすい品質が即座に顧客にコミュニケートできる」ということがあると考えられ、今後もいわゆる「ストーリー訴求」としての売り方は、増えることはあれ、減ることはないのかな、と感じた次第です。

なので、私の提案としては、利便性消費とプレミアム消費の両狙い、という戦略が今はおもしろいかと思っています。

一度、みなさんが携わっている製品やサービスが何を特徴としているのか、このフレームワークで考え直してみるとおもしろいと思います。

2005 11 13 [3.お勧めの書籍] | 固定リンク

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» 考えない私たち 『第三の消費スタイル―日本人独自の“利便性消費”を解くマーケティング戦略』 from joy
『第三の消費スタイル―日本人独自の“利便性消費”を解くマーケティング戦略』(野村総合研究所/著)という本を読みました。なかなか秀抜な日本人論です。 この本が取り扱っているのは、日本人の消費パターン。それらを分類・整理して、企業が対策すべき消費者の行動パターンを提示しています。その分類とは 1. プレミアム消費 2. 徹底探索型消費 3. 利便性消費 4. 安さ納得消費 著者達によれば、日本人の消費行動はこの4つに分類されます。 プ�... 続きを読む

受信: Jan 7, 2006, 8:04:19 PM

コメント

投稿者: つきっつ (Nov 14, 2005, 9:36:55 AM)

マクドナルドは厳密には外資ではありませんが、まぁアメリカからやってきた商品ということで外資扱いするのはわかります。しかし、ピザーラ(株式会社フォーシーズ)は完全に日本の会社では?ローマ字に音引きを組み合わせた社名は、日本人以外思いつきませんよね。
http://www.four-seeds.co.jp/about_us/enkaku_middle.html

投稿者: ムギ (Nov 14, 2005, 10:18:17 AM)

つきっつさん、こんにちは。

ご指摘ありがとうございました。

そうですね、確かに宅配ピザ、というスタイルを言いたかっただけなので、マクドナルドも含め、ちょっと表現を書き直しておきました。

これからもよろしくお願いします。

投稿者: ikaz (Nov 14, 2005, 11:46:53 PM)

ムギさん、はじめまして。

こういう分野に関して、全くの素人ですが、興味深く読ませて頂きました。

在米生活7年目のまだまだ新米ですが、日本人の利便性消費の理由3は、
特に大きく当たっていると感じました。

私も、日本に居た頃、こちらに移って間もない頃は、理由3に
当てはまっていたと思いますが(←商品に対する信頼度が高かった。)、
こちらに来てからは、安価な店でも、そうでない店でも、いろいろ吟味するようになりました。

一概には言えないと思いますが、個人の観察/感想からすると、
こちらでは、”安かろう悪かろう”は全く問題なし!という感じでしょうか。

”悪かろう”でもOKな人たちはたくさんいますし、
”悪かろう”が嫌な人は、購入する前に、(まず1~2回で使えなくなることを前提に。笑)パッケージから出して、
時間をかけて、いろいろチェックしています。

ムギさんが挙げられていた、苦戦している外資の一つは、
どちらかというと、”安かろう悪かろう”商品が多いですが、
こちらでは大きな収益をあげています(←日本では違う戦略かもしれませんが。)。

私も、WMとして忙しい方なので(←いちいちチェックしていられません。笑)、
いつの間にかその大型店へは行かず、失敗の少ない方へ行くようになりました。
#やはり、こちらが楽ですもの。(笑)

機会があれば、是非、お薦め頂いてる本を読もうと思っています。

投稿者: ムギ (Nov 16, 2005, 12:01:16 AM)

ikazさん、こんにちは。

なるほど、確かに海外は安かろう・悪かろうが許されますが、日本では許されない面が多いです。

なので、日本では逆に商品に対する吟味をする、という習慣が付かないのでしょう。

そうすると、逆に失敗が少ない生活は日本よりもコストがかかったりしないのでしょうか?

とても興味があります。

日本でも、100円ショップやディスカウント店で手に入るものは、けっこう、安かろう、悪かろう、です。壊れますし、洋服は色落ちしますし。

で、何度かそういう目に遭うと、だんだん、どれが100円ショップで買っていい商品で、どれがだめか、なんていう学習をしていきます。

そんなものなのかもしれません。顧客経験と学習、おもしろいです。

そういえば、広告の人とよく話をするのですが、やはり広告は国ごとに違うので、なかなか日本の代理店は海外に行けないし、海外の代理店も日本に入ってこれない、と言っていました。

買い物も一種のコミュニケーション手法なのでしょうね。

投稿者: matagi (Nov 18, 2005, 2:07:29 PM)

はじめまして。
いつもおもしろいなと拝見しています。
勉強になります。

ムギさんの記事を読んで、自分が究極の利便性消費をしていた頃を思い出しました。仕事が忙しく、少ない休日はひたすら寝ていたい頃です。
食料は閉店間際の駅近所のスーパーで、日用雑貨と衣類と化粧品は通勤途中のエキナカの無印良品でした。私の周りも、「買い物のためにわざわざ外出しないなぁ。通勤途中で全部すませているなぁ。」という人が珍しくなかったです。
コンビニすら行かない(たどり着けない)利便性消費者でした。

今は結婚して地方都市に住んでいます。じゃ兼業主婦として、「徹底探索消費」になるのかと思いきや、さにあらず。地方都市のお買い物は車が前提です。ガソリン代や移動時間などを考えると、近所のSCで食料衣服を買うパターンに落ち着きつつあります。ここでも、利便性消費のままです。また地方都市は競争がないためか、価格と商品の種類に関して選択肢があまりありません。賃貸物件も少なく、1軒目で決め、車も5分で決めて購入しました。こんな流れで、地方では利便性消費に落ち着いている人がおおいと思います。
家で布団を干していると、隣の家と同じ布団だったりします。

私の理想は徹底探索消費ですが、時間と選択肢に恵まれないと、無理なようです。

投稿者: ムギ (Nov 18, 2005, 8:40:23 PM)

matagiさん、こんにちは。

あーー、おもしろいですね。品揃えがあまりないと、選択もできない、というフレームワーク。

やはり、そうするとネットの発達が徹底探索消費を加速する、という仮説が成り立ちそうです。

とはいえ、「ファスト風土する郊外」で三浦展さんが指摘しているとおり、いろいろな地方の風土が失われているのも事実のようです。

そのうち、振れすぎたバランスが元に戻るのでしょうか?

投稿者: matagi (Nov 19, 2005, 1:05:25 PM)

>振れすぎたバランスが元に戻るのでしょうか?
戻るというか、地方によりますが、戻そうという流れがあると思います。具体的には大型店の出店規制です。

規制される側の小売店は反論していますが、消費者として見ても、地方都市に大型小売店がありすぎるように思います。車で走ると、地方都市郊外に一里塚のようにあります。スクラップアンドビルドで、どこかの採算があえば小売店として良いのでしょうが、人口が減りつつあることを考えれば、今ある店舗のどこかは10年以内に撤退するように思います。そうなれば、地方に廃墟が増えるだけです。

このまま大型店の出店を認め続けたら、地方都市の商店街はズタボロになって、大型店が撤退した日には、日々の買い物に困るようになると思います。という視点から、振り戻さざるをえないと思います。

>ネットの発達が徹底探索消費を加速する
その仮説は、私の消費行動には該当しています。
地方にきてから、ネットでの買い物が増えました。
ここ1年、ネットで購入したものを振り返ると、下記のようになります。
○ノートパソコン
○ipod
○メモリーカード
○有機野菜(月2回取り寄せ)
○贈答品(お菓子)
○書籍
逆に、ネットで検討したけど、ネットでの購入は見送ったものは、下記の通りです。
○衣類
○靴

パソコンや書籍は、ネットで検討して間違いがないので、購入したんだと思います。逆に、購入しなかった衣類や靴は各社でサイズ表記にばらつきがあって、比較が面倒だったのでやめました。色や素材もネットじゃわかりにくいですし。この点が改善されれば、衣類もネットで購入するようになるかも。

投稿者: ムギ (Nov 21, 2005, 9:47:58 PM)

matagiさん、こんにちは。

確かに、説得力がありますね。商店街がなくなって、スーパーばかりになるのはあまりよいこととは思えませんので。

ネットの問題は、やはりスクリーンからだけだとわかる情報に限りがある、ということでしょうか。

衣類はまだなんとかなりますが、靴はきついですよねぇ・・・。

もっとも、通販みたいに、どんどん買ってから返品できる、みたいになると変わるのかもしれません。

素材やスタイルがわかるコミュニケーション、おもしろそうです。ちょっと考えてみます。

投稿者: てりやき (Dec 31, 2005, 1:50:08 PM)

ムギさんはじめまして。初カキコします。
ずっとフリーター人間してます。

大型スーパー撤退の件に関してですが、少し前にテレビで特集を見かけました。

実際は、撤退した後の建物をそのまま利用して地元の商店街やお店を持っていなかった人たちがそこに集まり、買い物が出来るようになったというものです。

とはいっても実際は1階の少しのフロア程度なので、品揃えは歴然ですが。

居なくなったら居なくなったらで、チャンスと思い商売を始める人も出てくるのでは?

ちなみにその特集では、昔ながらの商店街の方が、自分売っていた商品だけでなく他の商品も扱ったり、通販のように注文させ頂ければなんでも手配して取り寄せますよといったことをしていました。

ネットショップのように在庫を持たなくて、いろいろ注文を受けようとしてるのは賢いと思いました。

投稿者: ムギ (Jan 2, 2006, 10:55:04 PM)

てりやきさん、こんにちは。

おもしろいニュースですね。ありがとうございます。

おっしゃるとおり、何かのことが行きすぎると、がならずそこを補正するための反作用、みたいなものが働くので、これから、そういう商店の逆襲、みたいなものがいろいろ流れとしてあるかもしれません。

あとでそのニュースを探してみます。

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