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February 03, 2005

How Full is Your Bucket? あなたの心のバケツの満たし方 ~ アメリカのJさんのお勧め第6回

package

How Full is Your Bucket?: Positive Strategies for Work and Life
by Tom Rath and Don Clifton

いつも大好評のアメリカ在住のJさんのお勧めですが、新しいものが届きました。今回は少し軽めのものということですが、How Full is Your Bucket?、日本語にすると「あなたの心のバケツの満たし方」というところでしょうか。

内容を一言で表すと、positive psychologyやstrength psychology、すなわち「ポジティブシンキングの心理学」に関するもの、邦訳未発売です。共著者のDon Cliftonは邦訳があるものだとさあ、才能(じぶん)に目覚めようも著しています。

過度なポジティブシンキングは現実逃避になりますが、適度なpositive psychologyやstrength psychologyはとても心身の健康によいということをいろいろな調査でわかりやすく教えてくれます。

以下はJさんからいただいた内容です。

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「5対1の魔法の比率」-1970年代、John Gattmanというアメリカの心理学者が、結婚して間もない夫婦700組以上について、2人の間の会話を15分だけ観察し、そのビデオテープを詳細に分析して会話の中のやり取りをpositiveとnegativeに分類し、その比率をとりました。

そしてnegative1に対しpositive5以上であるかを基準にして、将来の離婚の予測を立てました。その10年後に追跡調査をしたところ、予測は何と94%の正確さで当たっていました。

有名な研究結果だそうですが、本書は日常生活におけるpositive emotionsの重要性について書かれたものです。短く(CD2枚)文章も平易です。著者はpositive psychologyやstrength psychologyといわれる分野の第一人者であるDon Cliftonと、彼の孫にあたるTom Rathです。朗読はすべてTom Rathが行っています。

Don Cliftonがこの分野を追求しようとしたきっかけは、朝鮮戦争で捕虜(POW)に取られたアメリカ兵は、北朝鮮側から身体的な扱いはそこそこであったものの、精神面でのpositiveさをとことん奪われたことで死亡率が群を抜いて高まったという研究結果でした。

そこでCliftonは、もし徹底したnegativityが人を殺すまでの(negativity kills)強力な力を持っているならば、逆にpositivityをとことん極めると、ものすごくいいことがあるのではないかとの問題意識を持ち、その後の50年の人生をかけて研究を続けたそうです。

学校の指導でも、職場での業績評価でも、人間はとかくnegativeな側面や欠点に注目しがちである。通信簿があれば、アメリカの親は例えば子供の通信簿の英語のAを喜んで励ますのではなく、数学のFをとことん言い立て、個性を尊重するよりもバランスよく皆と同じようになることを望む。

職場ではうまくいったことよりも “areas of improvement”などの名目で欠点の克服ばかり言い立てる、と指摘します。

(余談ながら、アメリカは日本に比べて「ほめて伸ばす」教育だと一般に言われていますが、在米年数が長くなり、自分の子供が学校へ行くようになって、この著者たちが述べるように必ずしもそんなことはないな、と私も薄々感じ始めていました。)

そうではなくて、もっとpositiveに、他人に親切に心のこもったほめ言葉(praiseとrecognition)を短くてもいいからもっと頻繁にかける、そうすれば日常生活は会社も学校も家庭ももっと生産的で健康的なものになる、そしてそれはさまざまな調査で証明されている、というのが本書の趣旨です。

それは単に気持ちいいというだけでなく、ビジネスとしての業績向上が確実に達成できると断言しています。「Positiveであれ」とのメッセージ自体はいろいろな本に書かれている極めて当たり前のことですが、「バケツ」の比喩がとてもうまく生きていて、印象に残るcompellingな1冊です。

Every moment counts -私たちは生活のいろいろな局面で他人とのやり取りの“moments”が発生し、それらはneutralということはまずなく、必ずpositiveまたnegativeな経験になります。そして私たちひとりひとりの心の中にバケツがあります。

-Positiveな経験をすると、バケツに水がたまってきます。
-Negativeだとバケツから水が漏れ出て行きます。

バケツが空だと気持ちが荒みます。充実した生活を送るためには、このバケツを常に満たしてあふれるようにすること、そしてその一番の方法は、他人のバケツに水を注いで上げることでそれが自分のバケツを満たすということだ、と著者たちは論じます。

本書の中でいろいろな調査結果がたびたび引用されます。

例えば
「positiveな人はnegativeな人より平均寿命が10年長い(対して喫煙による寿命の差は5-7年)」、
「optimisticな人は年に一度医者にかかるかどうか、対してpessimisticな人は平均3.5回以上かかる」、
「optimisticな人は風邪の治りが早い」、
「職場でのnegative emotionsのコストはアメリカに限っても生産性の低下など年間で3500億ドル、付随して起こる健康問題による医療費も含めると保守的に見ても1兆ドル、これはアメリカのGNPの10%に相当」

など。

さらに、いろいろな“bucket filling”や“bucket dipping”の具体例が紹介されます。その中にはTom Rath自身の幼少時からの経験や祖父Don Cliftonへの感謝の手紙も紹介されます。そして最後の方に実践的な5つのstrategiesが紹介されます。

1.バケツの水漏れを防ぐよう気をつける;
2.正しいことwhat is rightに光を当てる;
3.親友を持つ、できれば職場に;
4.予想もしないやり方で行なう(give unexpectedly);
5.例の「自分が他人にしてもらいたいこと」でなく、相手が本当にしてもらいたい形で感謝を表す。

このCDにはすばらしいおまけがついていて、それはwww.bucketbook.comでのStrengthFinderという、自分の本当のstrengthを知るためのテストを無料で受けられる個別のコードが書いてある名刺大のカードがケースの中に入っているのです。著者からのbucket fillingのためのプレゼントだそうです。

孫のほうのTom Rathは、若いときから癌を何度も体内に発見しつつも、周りの家族・友人からバケツにたくさん水を注いでもらったおかげで、現在まで元気でいるといいます。実はおじいさんのDon Cliftonも末期がんに襲われ、本書を人生最後の著作にしようとの気合いで作業を始めました。彼は本書の第一ドラフト完成の1週間前、2003年9月に亡くなりました。それで朗読はTom Rath一人で行なわれたのです。

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ちなみに、おまけで付いているStrengthFinderはとてもおもしろいもので、これだけでもこのCD代1,800円の価値があると思います。

私はさあ、才能(じぶん)に目覚めようの付録として受けましたが、おもしろいので周りにもたくさん勧めました。

これは、34の強みの中から、自分が何を強みと感じて価値観を持っているか、ということを5つ選んでくれるものです。私は自分にあって、周りにあまりなかったもので「Inpu(収集心)=好奇心が強い知りたがり屋」「Ideation(着想)=できごとをうまく説明できる見方」があり、笑ってしまいました。

このCDを聞いて、自分のバケツや周りのバケツにPositiveを注ぎ込みたいと思います。ちなみに、このバケツに水を注ぐ、という考え方は幸せの心理学という書籍の中にあるストロークという概念にとても近いと思います。

ブログもバケツを互いに注ぎ合う道具なのかもしれません。Jさん、いつもありがとうございます。

(参考-これまでのJさんのレビュー)

Execution: The Discipline of Getting Done
Spontaneous Fulfillment of Desire
What Should I Do with My Life?
Re-Imagine!
The Power of Full Engagement

2005 02 03 [3.英語-Audio Bookのお勧め] | 固定リンク

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コメント

投稿者: メセニ (Feb 9, 2005, 11:29:26 PM)

ブログは、バケツを互いに注ぎ合う道具でしょう。
そう実感しています。

いま考えると、以前の私のバケツは、ほぼ空でしたね^^

これからもエントリー楽しみにしています。

投稿者: ムギ (Feb 9, 2005, 11:52:40 PM)

メセニさん、こんにちは。

そうですね、とても人間関係が豊かになるように感じています。

ブログを始めてから、昔のパソコン通信の頃の時代を色濃く思い出しました。

インターネットになってから、ややコミュニティ的な色合いが薄れてきていますので、新鮮な感じでした。

メセニさんのブログも楽しみにしています。

投稿者: 武蔵野婦人 (Feb 14, 2005, 10:05:20 AM)

どもども、武蔵野婦人(某所知人)でござる。

そうかあ、バケツに水。
私ね、まったく別の例え話を以前聞いたことがあって
そちらのほうが重く重く心に残っているので
「夫婦でバケツに水を満たす」というのは、正反対の意識を持っています。

その話というのは。
「バケツの水はこまめにひっくり返しなさい」ということ。
不満、すれ違い、ちょっと変だなと思ったこと。
いずれも、そのときは水の一滴だから、たいしたことはないとやりすごしてしまう。
そのうち、その一滴がだんだん夫婦のバケツにたまってくる。

このバケツは、ひっくり返せるうちにひっくり返して
こまめに捨てていきなさい。
ちゃんと話し合いをして、けんかをして、爆発しなさい。

バケツの水というのはね、ここまでためられるのか、と思うところまで表面張力でたまっていくものなのよ。
まだ平気、まだ平気と思っていると
ある日
いつものたった一滴、と思った水で
突然あふれてこぼれだす。

一度あふれだしたら、水はもう二度とたまらないの。
あとはあふれだすだけ。
でね。
そんなところまで行ってしまったら
もうばけつの水はひっくり返せなくなってるのよ。
ためすぎて、重くなりすぎて。

…っていう話。
なんかさあ、すっごい説得力があって、私にとっては夫婦のバケツの水っていうと、これなんだよね。
実際に、ほんとに私も最後の一滴であふれた、という実感があるし、こうなるともうもとには戻らん、って本当だなあと。
こうした部分はこまめにひっくりかえし
ポジティブな部分を一滴づつためていくのが大切なのかもね。

っつことで、バケツの水バージョン2ってことで>笑
この本も、いかにもアメリカンな感じですが、おもしろそうなので機会があったら見てみますね。

投稿者: ムギ (Feb 14, 2005, 11:55:06 PM)

武蔵野婦人さん、こんにちは。どなたかと思いました(笑)。

私は一度、濁水をくみ出さずにほっておいて、最後の一滴どころか、最後の最後でバケツごと蹴飛ばしたことがありますので、そのバージョン2は、とても身にしみる物があります。

うん、そうすると、バケツにたまった濁水は捨てて、清水をどんどん注ぎ込むといいのでしょうか。

もし機会があって聞いてみたら(読んでみたら)、また感想を教えてください。

P.S. いつのまにかブログも作っていたのですね。知りませんでした。

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