« Present - 「チーズはどこへ消えた」の作者が送る寓話 | トップページ | audible活用法 »

February 10, 2005

Blink: The Power of Thinking Without Thinking - 「瞬時の判断」の力

blink

Blink: The Power Of Thinking Without Thinking
by Malcolm Gladwell

Tipping Pointで一世を風靡した著名なジャーナリスト、Malcolm Gladwell氏の最新作のBlink(瞬時の判断)のレビューがJさんから届きました。おもしろくて一気に聞いてしまったそうで、とてもインパクトがある内容だったそうです。アメリカでもベストセラーになっています。

以下はJさんのレビューです。期待して読んでください!!

------------------

アメリカでこの1月に出版されたばかりの本書は、人間の持つ瞬間的・直感的な判断力、英語でいうsnap judgment、 hunch、 rapid cognition、unconscious associationなどの重要さと強力さについて、非常に興味をそそられる事例を次から次へたたみかけるように紹介しながら論じたものです。

そうした「瞬時の判断」というのは、しばしば多くの情報を吟味して時間をかけた意思決定よりもはるかに優れていると、著者のMalcolm Gladwellは語ります。タイトルのBlinkは「まばたき」を意味します。先週のThe New York Timesベストセラーリストでノンフィクションの部初登場2位でした。

著者によれば本書には大きく3つの目的があります。

一つ目の目的は、瞬時の(instantaneous)自発的に(spontaneous)沸きあがってくる(bubbling up)優れた判断というものが確かに存在し、それは誰もが持っており活用できるものであるということを明らかにすること。

Gladwellの言葉では、 “thin slicing”(薄く切り取ること)と呼ばれています。事例として紹介されているのは、

例えば:

· カリフォルニアのゲティ美術館が、ある古代ギリシャの彫像(kurous)を10億円近くで購入しようとした。専門家による14ヶ月の鑑定では本物であるとの結論、しかし古代美術品の目利きの専門家たちは一目見た「瞬間」に、おかしいと感じる。よく調べると実は贋物だった。

· 前回の “How Full is Your Bucket?”でも紹介されていた、たった15分の会話の分析から将来の離婚可能性を予測したJohn Gottmanの分析。

· 大学のクラスの良し悪しを、教授のしゃべる様子を音を消したビデオで10秒、または5秒、または2秒学生に見せて、評価させる。その後数ヶ月かけた実際の学期末の学生の評価とほとんど一致していた。

· ある人の性格を把握するのに、その人の学生寮の部屋やベッドルームを30分だけ観察して判断した結果が非常に正確であった。

この部分だけで一冊の本にしてもいいくらい、とりあげらるケースは大変面白く、詳細な上に分析も鋭いのですが、Gladwellはそこで簡単に終わりません。

二つ目の目的は、しかしながら、こうした瞬時の判断は時として状況や文脈に左右されて、誤った結果を招くこともある危険性にも着目すること。

事例としては:

· 被験者に作文のクイズをしてもらう。その中に意識的に「老い」に関する単語を多く散らばらせておくと、その後部屋から出て行く被験者は歩くのが勝手にゆっくりになっている。Primingと呼ばれるそうです。

· 人は誰でも意識的(conscious)に持つ価値観と無意識(unconscious)に持つものがあり、後者は知らず知らずの連想性(implicit association)を帯びていて、瞬間的な判断はこうした連想性に影響されやすい。男性-仕事・女性-家庭であるとか、白人-善・黒人-悪など。(これについてはwww.implicit.harvard.eduで実際にテストをすることができます。Gladwell自身も何度もやって、その結果に驚きました。彼は白人のお父さんと黒人のお母さんを持つ “half black”の立場です。)

· いわゆる偏見ではない「見た目の印象」に惑わされるケース。Fortune 500のCEOは圧倒的に長身の人が多い。180センチ以上の人はアメリカ人男性全体の14%、CEOでは58%。

· いわゆるブラインドテストでペプシに惨敗したコカコーラが、ブラインドテストで万全のテイストを作って投入した新しいコカコーラが無残な失敗に終わったのはなぜか。ブラインドテストは、一口すすっただけで判断する意味でthin slicingです。

· Herman Miller社の(今では超有名な)メッシュを多用したエルゴノミックなオフィスチェアーが、テスト段階では見た目が散々な評判だったが、マネジメントが発売を強行したところ、空前のヒットになったのはなぜか。

そして三つ目の目的は、こうした瞬時の判断は、無意識のドアの後ろにあるものだが、実際のcontrolしeducateすることができ、それによって生活や世の中がもっとよくなる可能性を論じること。

そして全体のまとめのような位置づけで、ニューヨークであった悲劇、黒人Amadou Dialloがパトロール中の白人警官4人に誤って射殺された事件を詳細に取り上げ、表情の微妙な(ミリ秒単位の)変化によるmind readingやmomentary autism(瞬間的な自閉症)などを取り上げています。

本書では、この手の話題には珍しく、rapid cognitionがどのような脳のメカニズムで起こるのかなどといった科学的解説は一切ありません。またジャーナリストらしく、文献調査で終わるのではなく、実際に研究者や業界の人に会いに行き、自らも体験してみることで、文章にリアル感と迫力が出ています。

Malcolm Gladwellは、高級週刊誌The New Yorkerの専属ライターで、前作Tipping Pointで一世を風靡して以来、引っ張りだこです。一年に25回講演を行い、今や一回あたり400万円だそうです。HPなどの会社は彼にコンサルティングを頼もうといろいろ働きかけているようですが、彼自身は自分はあくまでもジャーナリストであるとの矜持を崩さないようです。

CD7枚ですが、私は話に引き込まれ、一気に聴いてしまいました。Tipping Pointの時より朗読が上手になった気がしました。彼のThe New Yorkerでの長文記事は一部のビジネススクールでの必読になっているそうです。本書のexcerpts、またThe New Yorkerの過去の記事はwww.gladwell.comで読むことができます。

------------------

ちょうどJさんがアメリカでこのCDを聞いているときに、私がたまたま別のブログにおなじMalcolm GladwellのTipping Pointに関する記事を書いていて、Jさんはびっくりしたそうです。

私もblinkは発売直後に買っていたのですが、まだ積ん読、のままでレビューをいただくまで、封を切っていない物の一つでした。

あわてて昨日聞き始めて、まだ途中ですが、確かにTipping Pointの時にはやや聞きづらいと感じた著者の朗読の早口の癖も直っていますし、聞きながら「へぇ」「なるほど」「そうだよね」と納得の連続です。

アメリカは1990年代にこういった無意識や脳の力・仕組みの研究について国策としてものすごい労力を使って研究しており、考え方がすごく深まっています。それを上手な切り口でわかりやすくまとめてくれるMalcolm Gladwellの力には脱帽ですし、繰り返し聞いてみようと思っています。

(参考-これまでのJさんのレビュー)

How Full is Your Bucket?
Execution: The Discipline of Getting Done
Spontaneous Fulfillment of Desire
What Should I Do with My Life?
Re-Imagine!
The Power of Full Engagement

2005 02 10 [3.英語-Audio Bookのお勧め] | 固定リンク

トラックバック

この記事のトラックバックURL:

この記事へのトラックバック一覧です: Blink: The Power of Thinking Without Thinking - 「瞬時の判断」の力:

» ひらめきは大事 from スモールビジネスしよ!
よく読む雑誌に「FastCompany」がある。 都内では、新宿紀伊国屋で買うのが今のところ安い。 とはいえ、場所柄便利なのは東京駅付近の丸善で、こっちだと... 続きを読む

受信: Mar 4, 2005, 11:36:24 PM

コメント

投稿者: ジャスミン父 (Feb 15, 2005, 6:07:31 AM)

はじめまして。
神戸のジャスミン父といいます。
自閉症の検索で辿り着きました。
興味深い話です。

3歳の自閉症の娘がいます。
娘の幸せを考えた時、世間に広く誤解なく理解してもらうことが大切かと思いblogを始めました。
またお寄りください。
http://blog.goo.ne.jp/rin-marika/

投稿者: ムギ (Feb 17, 2005, 12:05:51 AM)

ジャスミン父さん、はじめまして。コメントありがとうございました。サイトもお伺いしました。

私のヒアリング力では、自閉症、という英語の単語がわからなくて該当部分はまだゆっくり聞けていませんが、ぜひ、多様性のある社会の中でいろいろなものが共栄できるといいと考えています。

またぜひ、サイトも訪問させていただければ幸いです。

これを機会に、今後ともよろしくお願いします。

投稿者: のぶ (Aug 29, 2005, 9:04:09 AM)

ムギさん、はじめまして。

いま、"Blink"を読んでいるところで、かなり気に入っています。"thin slicing"で検索したら、こちらが見つかりました。

Jさんのレビューを読みかけたのですが、まずは先入観なしで読んだ方がいいかと思い、途中までで失礼して、コメントしています。

Gladwellは前作で超有名だそうなのですが、この本を裏表紙の広告を見るまで知りませんでした。

「聞く」と書かれていたので、講演に行かれたのかと思ったら、オーディオブックを聞かれているのですね。ぼくもいずれ挑戦してみたいものです。

それでは、読み終ったらまた来ます。

投稿者: ムギ (Aug 29, 2005, 7:34:16 PM)

のぶさん、はじめまして。

blink、いいですよね。

私は何か一つAudiobookを勧めてください、と聞かれるときで、比較的英語が聞き慣れている人にはblinkを勧めることにしています。

はい、このブログのコンセプトはなんでもいいから耳を使おう、というものなので、講演でも、DVDでも、Audiobookでもありです。

Tipping Pointもおすすめです。ぜひ、また読み終わったら、遊びに来てください。

投稿者: リカポン (Feb 24, 2009, 11:23:43 AM)

はじめて訪問させて頂きました。
お勧めのオーディオブックを聞いてみたいと思うのですが
例えばBLINKとか1位から10位まで英語の題名がついていますが、これらは翻訳のものでなく原書の朗読なのでしょうか。
そうだとすればとても聞きこなすことは出来ないと考えてお聞きしたいです。

カテゴリー